目次第1話/ 第2話(前編後編)第3話/ 第4話/第5話/第6話


第2話 石像の鳥 後編

星乃すばる


 しずみは石像の鳥を、眠るときはベッドの上に、勉強するときは机のはしに、という具合に、いつも近くに眺めて過ごした。そしてときどき、がんばって目を合わせ、鳥を踊らせるのだった。

 そんなふうにして数日がたった頃。勉強部屋の窓ぎわの机に並べられたままになっていた鳥たちに、異変があった。半数以上が、痛ましくひび割れて壊れてしまっていたのだ。

「……そんな……!」
「どうしましたか」

 遅れて入ってきたみかげは、青ざめたしずみを見て声をかけた。壊れた鳥たちをみとめると、みかげは険しい表情でひとつひとつを調べはじめた。

「だれかが、壊してしまったの?」

 おそるおそる尋ねるしずみに、わかりません、とみかげは静かに首を左右にふる。

 だが、翌日になると、無事だった石像のうちの半分ほどが、また壊れていた。
 みかげはあごに手をやりながら、うーん、と首をひねっている。

「しずみ様、これは石像がひとりでに壊れてしまったのかもしれません」
「ひとりでに? どうして?」
「鉱山から見つかった古いものですし、もともと長くはもたない作りなのかも」
「そんな……僕の鳥も、壊れちゃうのかな」

 持ち歩いていた自分の鳥を、しずみはきゅっと大事に握りなおした。
 しずみは鳥に踊らせることをやめ、授業中も、食事の間ですらも握りしめていた。
 壊れないように、壊れないように。
 悲しい祈りを胸にだきながら、ときどき鳥をそっとなでて過ごした。

*   *   *

 その晩もしずみは、王宮の真ん中のガラスの塔の部屋で、慎重に鳥を握りしめながら大きなベッドに入った。

 しずみは鳥に話しかける。

「ねぇ、君は、遠い昔、ひょっとして本物の鳥だったのかな。それとも、誰か魔法の職人さんに、魂をこめられたのかな。どっちにしても、君は、生きているんだよね」

 鳥は答えないが、声は届いているはずだ、としずみは信じていた。

 だが、大事な宝物を握って眠った次の朝……。
 目を覚ましてすぐに、ベッドの中で手を開くと、鳥は壊れていた。ばらばらになった破片が、しずみの手からぽろりと布団の上に落ちる。

「あ……!」

 しかし、しずみは目を見はった。
 壊れ落ちた鳥のぼろぼろの体から、光り輝く透明な鳥が現れ、羽ばたいたのだ。

 それはまるで、石像から光の鳥が生まれ出るようだった。

 光の鳥はしずみの周りを何度かまわると、ガラスをつきぬけて窓の外へと羽ばたいていった。

*   *   *

「みかげ、光る鳥が!」

 朝の教室に興奮して現れたしずみを、みかげは石の破片になった石像たちを整理しながら落ち着いた表情でむかえる。今日までに、石像はすべて壊れてしまっていた。

「どうなさったんですか。ゆっくり教えてください」

 しずみが、光る鳥が生まれたことを語るうちに……。
 窓の向こう、なだらかな山々を背景にした王都の空に、きらめくものが現れた。

「みかげ、あの光はひょっとして!」

 きらめきは大きくなり、近づいてくるようだった。

 それは、光る鳥の群れだった。

 群れは窓をすりぬけて部屋の中へ入ってくると、しずみとみかげの周りを踊りまわった。
 それから鳥たちは、さまざまな芸をくりひろげる。そのすべてが、色とりどりの光であらわされるのだった。舞い踊る鳥たちの体は虹色にゆらめき、歌う声にはどこか奥深い響きがあって幻想的だった。

 しずみとみかげは、鳥たちの美しい芸に、言葉を交わすのも忘れて見入っていた。
 光をなびかせながら、軽やかに踊っていた一羽が、しずみの周りをめぐって、ぴぃ! と鳴いた。

「君は……生まれ変わったんだね」

 しずみの言葉を聞くと、鳥はいっそうまばゆく輝いて踊り出した。彗星のように光が尾を引いて、まるで鳥の立派な尾羽のようだった。
 やがて鳥たちは、朝の空に飛び去っていった。

「旅に出たのかなぁ」
「またどこかで会えるといいですね」

 二人はそうつぶやいて、鳥たちのきらめきが遠くの山の果てに見えなくなるまで、見送った。

 第2話 石像の鳥 おわり

目次第1話/ 第2話(前編後編)第3話/ 第4話/第5話/第6話

メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで

気に入ったら押していただけると励みになります!