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第3話 風の旅立ち 〜1〜

星乃すばる


 深い森と澄んだ湖のあいまに、波空王国の町々が見えている。
 そのひとつの町は、小さいながらとても古い歴史を持っていた。
 町の裏山には、山の神様をまつった、こぢんまりとしたお堂がたたずんでいる。
 このお堂で、王子しずみのふしぎな冒険がはじまろうとしていた。


「心の ?」

 昼間でもうす暗く、冷んやりとしたお堂の中。山の神様をまつった祭壇のとなりで、しずみは祭司の青年から話を聞いていた。しずみの青い瞳をまっすぐに見つめながら、祭司の青年はかしこまって話をしていた。しずみは十歳であるとはいえ、この国の王子だったからだ。

「そう、心の灯。そういう言い伝えがございましてね」

 祭司の青年は、決まりどおりの三つ編みの髪に、ゆったりとした白い服をまとっている。その手に、ガラスの器に入れられたろうそくを持っていた。
 太く短いろうそくは真っ赤な色をしている。そのろうそくに、祭司の青年はマッチで火を灯した。

「さぁ、火がつきました」

 しずみはこのろうそくを持って、お堂の裏山へ行くことになっていた。

 それは、このお堂に伝わる小さな試練だった。火の灯されたろうそくを持って、裏山の祠にお参りをする。ろうそくの火を消さずに帰ってこられたら、願いが叶うと言われていた。

「このろうそくの灯りは『心の灯』をあらわしたものと言われていましてね。でも、本物の『心の灯』が、あなたに宿ることもあるかもしれません」

 しずみは首をかしげる。

「本物の心の灯って、なんですか?」

 祭司は朗らかに、だが重々しい顔で言った。

「山の神様は、真の勇気と優しさを持つ者に、『心の灯』を宿してくださるのだ、と言われています」
「勇気と……優しさ……」

 しずみはそうつぶやくと、微笑みを浮かべた。

「わかりました。確かめてみたいです、その心の灯を宿すことができるかどうかを」
「そうなるよう、願っておりますよ」

 祭司はそう言って、しずみにろうそくの入った器を渡した。

「ありがとうございます。では行ってきます」

 ゆらゆらと揺れる炎が消えないように。しずみは慎重にお堂を出ようとした。

「あ、しずみ様! そうだ、そういえば!」

 祭司が、追いすがるように声をかけてきた。しずみは振り返る。

「裏山には、ちょっとしたいたずら者がおりまして……試練を受ける者がいると、ちょっかいを出そうとしてくるかもしれませんから、お気をつけて」
「いたずら者……ですか?」
「なんといいますか、変わった子どもなんですが……なんというのかな……」

 祭司が言いにくそうにしているので、しずみはこくりとうなずいた。

「わかりました、気をつけます」

 そうしてしずみは、裏山の祠へと出発した。

 〜2〜へつづく

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