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第4話 月を編む 〜1〜

星乃すばる


 波空王国の空には、ひとつの月が、満ち欠けをくりかえしてめぐっている。
 昼間は、海辺の砂のように白く淡く。夜は、蜂蜜のような色で輝いて。
 その月が、どういうわけで満ち欠けをしているのか、知る者は少ない。
 十歳になる王子しずみは、そんな月のふしぎな秘密に触れることになる。

 波空王国の王宮、国王の玉座の間。
 入り口の近くには何人もの臣下が並び、奥の玉座には国王が座っている。玉座の周りには、星々をかたどったあかりが吊るされていて、国王もまた、星々の飾りのついた王冠を頭にかぶっている。

 そして、ひとりの男が、国王の前でかしこまっていた。

「それでそなたは、月を作れなくなってしまったと申すのだな」

 若い国王「あめかみ」は男に同情するように、眉を寄せながらそう言った。

 男はなにかの職人のような身なりで、右腕に包帯をまいて肩から吊っていた。この怪我のせいで仕事ができなくなった、と男は国王に訴えていた。その仕事というのが……。

「そもそも、わたくしどもが夜空の月を作っているということは、一般の人々には厳重に秘密にされておりまして」
「ああ、私も、月の職人にこうして会うのははじめてだよ」

 おそれいります、と月の職人の男は礼をして、困り顔になって訴えた。

「月は、新月の次の日から毎日、決まった時刻に作るものなのです。次の新月までの月は、作りためておいたものがあります。ですが、わたくしが新しく月を作れなくなってしまって……放っておけば、次の新月より先、空から月がなくなってしまいます」
「月がなくなる……それはおおごとだ」

 国王はそうあいづちを打ってから、問いかけた。

「だがわざわざ王宮を訪ねてきたというのは、なにかわけがあるのだろう?」

 月の職人はしばらく迷ったあと、決心したように国王を見つめた。

「大変あつかましいお願いかとは思うのですが……、王家の方の中に、しばらくの間、わたくしの代わりに、月を作ることのできる方がいらっしゃらないかと思いまして」
「ほう」

 国王は興味をひかれたように玉座に座り直した。月の職人は続ける。

「さかのぼれば、月を作る仕事は、もともと王家の方の得意とするところであったと言われております。誰でもできる仕事ではないのです。月の加護がやどった生まれの者でなくては。ですが王家の一族には、そういう方がお生まれになることがあると聞きます」
「なるほど、おもしろい」

 国王は愉快そうに微笑み、入り口近くの臣下たちの中から、ひとりの宮廷魔術師を呼び寄せた。
 王子しずみの教育係でもある青年、みかげである。
 みかげは魔術師のローブに身を包み、長い黒髪をなびかせながら、国王と月の職人の男の近くにやってきた。

「なんなりとご用命を、あめかみ様」
「そなたは占星術も得意であったな。月の加護がやどった生まれの者が、うちの王家にいるかどうか、調べることはできるか?」
「そうですね、見てみましょう……、職人のお方、少し下がっていただけますか、玉座の前に星図が埋めこまれているもので」

 みかげに言われて、月の職人がはっとしたように床の紋様を見て、わきに下がる。

 玉座の前の床には、魔法陣のように、正十二角形と二重の円が彫りこまれていた。みかげがなにごとかを唱えると、その紋様の上に、透明なドームのような膜が広がっていった。そして、床の十二角形の中には、色とりどりのガラス玉のようなものがいくつも現れて散らばった。

「これはいったい……」

 みかげは月の職人ににっこりと微笑みかけると、ドームの上に手をかざした。

「これは王国の星図。十二の星座と、惑星、太陽、月が巡る様子をあらわしています」

 月の職人は目を丸くして、みかげと目の前のものを見比べた。
 国王はおもしろそうに笑って、「何度見てもいいものだな」と言った。

 みかげがドームの上で、空気をかきまぜるように手を動かすと、床の上のガラス玉のような球たちが動き始めた。棒で突かれたように、あるいは見えない円の軌道に乗るように、球たちは星図の上を動いてゆく。
 みかげはなおも手を動かしていたが、やがてはっとしてその手を止めた。球たちの動きも止まり、ひとつの配置に落ち着いた。

「これは……」
「誰か、ふさわしい者が見つかったかな」

 国王の問いかけに、みかげはうなずいた。

「この星図にあらわされたのは、とある方が生まれたときの天体の配置です。月の加護を強く受けているのがわかります」
「そ、それはどなたなのです?」

 月の職人が、興奮を隠しきれないように尋ねる。
 みかげは静かに告げた。

「その者とは……王子しずみ様です」

 〜2〜へつづく

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