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第4話 月を編む 〜3〜

星乃すばる


 西の空に太陽が沈んで、まだ空が群青色をしている時刻。北の塔の屋上へ、しずみとみかげは石の階段をのぼっていった。

 しずみは冷え冷えとした屋上の真ん中に立つと、月笛をかまえる。

 風が、やんだ。
 しずみは静かに、曲を吹きはじめる。
 織り重ねられた音楽が、風を鳴らすような月笛の音色で、群青色の空に溶けていく。
 しずみは目を閉じて演奏に集中していた。だが、見守っていたみかげは、思わず「あっ」と声をあげて塔の向こうの空に目をこらした。
 金の粉を一面にまいたような輝きが、ただようようにしながら、こちらへ流れてくる。
 それは、金色の蝶の群れだった。
 蝶たちは、月笛の音楽にあわせて、踊るようにしずみのまわりに集まってきた。しずみは、あたりが急に明るくなったような気がして薄目をあけ、蝶たちに気づいてびっくりしたが、演奏はやめなかった。
 蝶たちの動きは、しずみが吹いていく音符に乗って遊ぶように軽やかで、しずみが蝶たちを指揮しているかのようでもあった。
 やがて蝶たちは、しずみから少し離れたところに集うと、動きをゆっくりにした。
 そして、糸を吐き、まゆのようなものを編みあげはじめた。
 蝶が糸を吐くなんて、と、しずみは目をみはった。そしてなにより、その細くまばゆい糸で作られていくものが、とても神秘的に見えた。
 それは、細い細い、新月のあとの二日月のような……。
 しずみも、みかげも、「月」が編みあげられる様子をじっと見ていた。
 曲が終わりにさしかかると、蝶たちは「月」を包みこむように隊列を組み、やってきたときのように音楽に揺られながら、西の空へ去っていった。
 蝶たちが見えなくなった頃、演奏が終わり、しずみは「ふう」と息をついた。
 少しだけ群青色の残る西の空を、みかげが指差した。

「しずみ様、見てください、あそこ!」

 そこには、指でなぞりたくなるような二日月が輝いていた。


 ぱちぱちぱち……、と、あたたかみのある拍手の音が、しずみたちのもとに届いた。
 音のしたほうを向くと、しずみの父である国王あめかみが、屋上の入り口の扉にもたれかかりながら、しずみたちと夜空の二日月を見つめていた。

「すばらしい演奏だったよ、しずみ」

 くだけた言葉をかけてきた父に、しずみはぱっと笑顔になる。

「父上、……ありがとうございます!」
「とても良いものが見られた。今宵の月は格別だ。おまえに頼んでよかったと思っているよ」
「父上……」

 しずみは、うまく言葉を続けることができない。……父のことは、少しだけ、苦手だと思っていたのだ。いつもむずかしそうな仕事をして、父の考えていることには思いも及ばない、と。
 月笛を手にしたままはにかむしずみを、みかげが優しく見つめていた。


 しずみはそれから毎日、月を編むつとめをはたした。
 昼の時間に出ていた白い月が、夕方になるたび、しずみの前で編まれた新しい月に入れ替わる、というのはふしぎでもあったし、毎日新しくなる月への愛着も感じた。
 満月を見たら、きっと、すごく嬉しくなるはずだ。

 第4話 月を編む おわり

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