精霊たちの暮らす森〈るせるか〉の奥の木のうろへ、風が季節をはこびます。
『空の玉手箱』シリーズの第1作。【絵本/短編/2010年】
(01)
そこは精霊や魔法があふれる世界。
るせるか の森の中、大きなむくりの木が
そら と しの の家でした。
(02)
むくりの木の中はからっぽで、
ところどころにあいた うろ が
扉や窓なのでした。
(03)
「今日はなにをしようかな?」
そら は窓から葉っぱがいっぱいに茂った空を
見上げてつぶやきます。そら はそうやって一日をはじめます。
りす がやってきました。
「おはよう、りすさん」
「おはよう、そら。しのは?」
「しのはまだ寝てるよ。」
(04_1)
そら は長 ――― いマフラーを
ゆさゆさとゆさぶりました。
「しの、 朝だよ!」
きらきらした木もれ日で、
そら のマフラーは動き出しました。
「…………そら、おはよぅー。」
「おはよう、しの。」
(04_2)
しの は、そら のマフラーを寝床にしている精霊でした。
でも、今日はなんだか元気がありません。
「どうしたの?」
しの はひゅるりと
うしろに隠れてしまいました。
(05)
しの は小さくつぶやきました。
「夏がやってきたんだよ。
重くるしいよぅ」
そら はあわててマフラーを外してみました。
昨日までぽかぽかしていた日ざしや風は、
かすかに夏のにおいがしました。
(06)
そら は しの をかかえて
家をとびだしました。